歌 :
海援隊
「お母さん、今僕は思っています。僕に故郷なんか、
なくなってしまったんじゃないかと。
そして、ひとつ残っている故郷があるとすれば
お母さん、それはあなた自身です。
あなたは、何から何まで故郷そのものです。
今、こうして静かに目をとじていると、お母さん、
あなたの声が聞こえてくるんです。聞こえてくるんです。」
今も聞こえる あのおふくろの声
ぼくに人生を教えてくれた
やさしいおふくろ
「コラ!テツヤ!何ばしようとかいなこの子は、おまえ、
はよ学校いってこんか。デレーッとして。
近所の人からいつも、おまえ何てウワサされようか、
知っとうとか。タバコ屋の武田ん方の息子は、
フォーク・ソング狂いのバカ息子、バカ息子って、
噂されよっとお。どうしてまた、
こげん頭の悪か子のできたとかいなね。
ほんなこと、母ちゃん情けなか。あの日、あの日、
父ちゃんが酒さえ飲んで帰ってこんかったら、
おまえのごたあ、バカ息子はできとらんとにねえ。
ほんなことが。
待て!待てテツヤ!またタバコば だまって
もって行きよろうがこの子は。ほんなこと はらん立つ。
家の稼業がタバコ屋からちゅうて、この子は
小学校四年の時からタバコの味おぼえて、
中学校一年の時ゃ、おまえ、歯のウラまっくろやなかったか。
まだ判らんとか。母ちゃんが、このタバコ屋を経営するために
どれだけ苦労しようか、血と汗と泪でよごれた女の半生が。
まだわからんとか、このバカ息子は、ほんなこと。アホ!
行ってこい!どこへでも行ってきなさいテツヤ。
おまえのごたあ息子が おらんごとなっても、
母ちゃん、なあもさびしうなか。
死ぬ気で働いてみろ、テツヤ。働いて、働いて、働きぬいて、
遊びたいとか、休みたいとか、そんなことおまえ、
いっぺんでも思うてみろ。そん時ゃ、そん時ゃ、テツヤ、死ね!
それが、それが人間ぞ。それが男ぞ。
おまえも故郷をすてて、花の都へ行くかぎりは
輝く日本の星となって、帰ってこいよ。行ってこい。どこへでも。」
今も聞こえる あのおふくろの声
ぼくに人生を教えてくれた
やさしいおふくろ